BioSupercomputing Newsletter Vol.3

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報告
生命体統合シミュレーション・サマースクール2010へ参加して

齊藤 健

東京大学大学院理学系研究科博士課程1年
齊藤 健

 私は、脳神経系研究開発チームの一員である東京大学の黒田真也教授の研究室に所属し、細胞内シグナル伝達経路に関して、数理モデル(特に時系列統計モデル)を用いて解析しています。今回、研究室の先輩からこのサマースクールの紹介をしてもらったことがきっかけで、自身の研究テーマに関係があるけれども日常の研究生活のみではなかなか交流できない異分野の方たちと交流したいと思い、参加させていただきました。

 もともとSiGNやLiSDASなど、遺伝子発現に関する時系列データを用いて遺伝子ネットワークの構造を推定するデータ解析融合研究開発チームの研究に興味がありました。というのも、私自身、シグナル伝達経路を数理モデル化するときに、モデルを使って説明することの意義を考えることに四苦八苦しており、その点に関する考え方を聞きたかったからです。実際にサマースクールで講演を聞いてみると、多くの研究者の方が、モデル化することによって医療応用に繋げたいと話されていたのが印象的でした。また、同じような方向性を持つ研究をしている方のお話を聞くことができ、非常に貴重な体験となりました。

 他の講演に関しても、脳・臓器から分子まで広い階層にまたがるテーマを扱っているため、参加する前は自分自身が内容についていけるかどうか不安に思う点がありましたが、実際には、専門外の人が理解できるように説明されており、自分の専門分野から遠いチームの人の話も最後まで興味を持って聞くことができました。特に、研究発表の話題が、研究のモチベーションや、どうしてその研究にスーパーコンピュータが必要なのかを中心にして丁寧に説明されていた点が良かったと思います。なぜなら、参加する前には「どうして生物の解析にスーパーコンピュータが必要なのか」という疑問を持っていたのですが、その疑問を払拭することができたからです。

 特に、生命体基盤ソフトウェア開発・高度化チームの研究発表は、予想以上に印象に残りました。現在私が用いている数理モデルでは、それほど計算機性能を必要としないため、並列計算による計算の高速化にはあまり関心がなかったのですが、このサマースクールでチューニングの方法論などを聞くことができ、これをきっかけに真面目に勉強する気持ちが強くなりました。将来的には、数千におよぶ細胞内の分子の挙動を一つのモデルで統合して記述したいと考えており、今後このサマースクールで学んだ知識を活かしていきたいと考えています。

 今後、来年・再来年と開かれるであろうサマースクールに期待することは、学生の積極的な参加です。今回のサマースクールに参加した学生は私を含め、計8人しかいませんでした。事業仕分けで話題に上っている「スパコンプロジェクト」のことを知らない学生はいないと思いますが、実際スーパーコンピュータを使う研究テーマとしてどういうプロジェクトが走っているのか、しっかり理解している学生は少ないように思えます。国家プロジェクトとしての科学研究の位置づけを知るためにも、より多くの学生がこのような場に参加することは大変意義深いことであると思いました。

 最後になりましたが、このサマースクールでは、研究紹介のみならず、サッカーなどのレクリエーションや夜の交流会等の企画がふんだんに用意されており、参加者同士が本音で議論・交流することができていたように思えます。サマースクールの運営事務局の方々に厚く御礼申し上げます。

生命体統合シミュレーション サマースクール2010の参加者

生命体統合シミュレーション サマースクール2010 プログラム

【1日目】 7月5日(月)
開会あいさつ
茅 幸二( 次世代生命体統合シミュレーションソフトウェア研究開発 プログラムディレクター)
「趣旨説明ならびに基調講演」
玉田 嘉紀( 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター 特任助教)
「非線形回帰によるベイジアンネットワークを用いた遺伝子発現データ
からの遺伝子ネットワーク推定とその並列アルゴリズム」
三沢 計治( 理化学研究所 次世代計算科学 データ解析チーム 研究員)
「ParaHaplo 〜並列化によりゲノムワイドハプロタイプ関連解析を
高速実行するためのプログラムパッケージ〜」
松崎 由理( 東京工業大学大学院 情報理工学研究科 産学官連携研究員)
「立体構造に基づくタンパク質間相互作用ネットワーク推定システムの開発」
吉田 亮( 統計数理研究所 助教)
「LiSDAS: Life Science Data Assimilation Systems」
懇親会
ポスターセッション
【2日目】 7月6日(火)
五十嵐 潤( 理化学研究所 次世代計算科学 脳神経チーム 特別研究員)
「リアリスティックな神経回路網モデルの基礎と大規模計算について」
本田 直樹( 京都大学 情報学研究科 研究員)
「細胞骨格系に依存した細胞形態変化のシミュレーション」
苙口 友隆( 横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 博士研究員)
「実験手法に対するMDからのアプローチ」
山根 努( 横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 特任助教)
「多剤排出トランスポーターAcrB」
宮下 尚之( 理化学研究所 次世代計算科学 分子チーム 研究員)
「分子動力学法を応用したサンプリング法 −Replica exchange interface( REIN)の開発−」
大野 洋介( 理化学研究所 次世代計算科学 高度化チーム 上級研究員)
「ハードウェアとチューニング」
小山 洋( 理化学研究所 次世代計算科学 高度化チーム 上級研究員)
「僕がHPC(High Performance Computing)が嫌いな理由」
総合討論
ポスターセッション
【3日目】 7月7日(水)
須永 泰弘( 理化学研究所 次世代計算科学 細胞チーム 研究員)
「オルガネラを考慮した細胞内生化学反応シミュレーター」
七澤 洋平( 東海大学医学部 循環器内科 研究員)
「細胞と臓器スケールを繋ぐ止血血栓シミュレータの開発」
杉山 和靖( 東京大学大学院 工学系研究科 特任准教授)
「固定メッシュ法に基づく流体構造連成解析手法の開発」
杉原 崇憲 (理化学研究所 次世代計算科学 高度化チーム 研究員)
「次世代計算機の適用に向けた性能測定」
閉会のあいさつ
解 散

BioSupercomputing Newsletter Vol.3

SPECIAL INTERVIEW
さまざまな最先端研究基盤を統合して活かすためにも
スーパーコンピュータの果たす役割は大きい

持田製薬株式会社 医薬開発本部 専任主事 東北大学 客員教授 西島 和三
超音波治療の推進および治療機器開発に欠かせない生体の音響的シミュレーション研究
東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 特任研究員 佐々木 明
研究報告
QM/MD/CGMのマルチスケール分子シミュレーションの実現(分子スケールWG)
大阪大学蛋白質研究所  米澤康滋/山中秀介/下山紘充/山﨑秀樹/中村春木
理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 福田育夫
細胞レベルの精緻な代謝モデルを用いた
肝臓シミュレータの開発と実証に向けて(細胞スケールWG)

慶應義塾大学医学部 谷内江 綾子
MEGADOCKによる網羅的タンパク質間相互作用予測(データ解析融合WG)
東京工業大学大学院情報理工学研究科 秋山 泰/松崎 由理/内古閑 伸之/大上 雅史
昆虫嗅覚系全脳シミュレーション(脳神経系WG)
東京大学先端科学技術研究センター 加沢 知毅
報告
生命体統合シミュレーションサマースクール2010を開催
理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム 石峯 康浩(臓器全身スケールWG)
東京大学医科学研究所 島村 徹平(データ解析WG)
理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム 須永 泰弘(細胞スケールWG)
京都大学大学院情報学研究科 本田 直樹(脳神経系WG)
理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム 舛本 現(開発・高度化T)
理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム 松永 康佑(分子スケールWG)
生命体統合シミュレーション・サマースクール2010へ参加して
東京大学大学院理学系研究科博士課程1年 齊藤 健
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