BioSupercomputing Newsletter Vol.3

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報告
生命体統合シミュレーション サマースクール2010を開催

理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム 石峯 康浩(臓器全身スケールWG)
東京大学医科学研究所 島村 徹平(データ解析WG)
理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム 須永 泰弘(細胞スケールWG)
京都大学大学院情報学研究科 本田 直樹(脳神経系WG)
理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム 舛本 現(開発・高度化T)
理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム 松永 康佑(分子スケールWG)
(五十音順)

 2010年7月5日から7日の3日間、神奈川県葉山町にある湘南国際村センターにおいて「生命体統合シミュレーション サマースクール2010」が開催されました。このサマースクールは、次世代生命体統合シミュレーションのプロジェクトに参加する若手研究員が中心に企画・運営を行ったものです。同プロジェクトに参加するポスドクや関連分野の大学院生など総勢57人が参加し、生命科学関連の数値シミュレーションや大規模データ解析に関する講演発表や意見交換を行いました。ここでは、参加者からいただいたアンケートの回答や、参加した大学院生全員に提出していただいた報告書の内容を織り交ぜながら、サマースクールの概要を報告します。

 サマースクールは、基本的に講演方式で進められました。最初に「基調講演」として、次世代計算科学研究開発プログラムの茅幸二ディレクターに、一流の研究者として持ち続けるべき研究への姿勢や気概などに関する持論を交えながら、ディレクター自身が携わってきた研究の概要を説明していただきました。その後、足掛け3日間にわたり、次世代生命体統合シミュレーション研究推進グループに所属する6チームそれぞれを代表して、計14人の方に最新の研究成果を紹介していただきました(講演者・講演タイトルの詳細は、p11表)。また、2日目の午後には、総合討論の時間を設け、次世代計算科学研究開発プログラムの姫野龍太郎副ディレクターにプロジェクトの進捗状況や今後の見通しなどに関する最新情報を提供していただいた後、参加者全員でスパコンの有効利用に関する方策などについて、質疑応答や意見交換などが繰り広げられまし た。懇親会やポスターセッションなど、個別に情報交換する時間も多めに設定しました。同様の目的で2日目の昼食休みを少し長めに設定したところ、情報交換にとどまらず、屋外でサッカーを楽しむなど、参加者同士の自主的な交流も行われました。

 アンケートの集計結果によると、講演者・講演内容に関しては概ね好評で「様々な階層(一分子から組織レベル)の研究テーマが行われていると実感できた」「内からの視点では思いもつかない質問―例えば自分達としては当然のものとして受け入れている理論に対して疑問を呈したものなど―もあり、外からの視点について知ることができた」「ペタコンの計画が、どのようなプロジェクトで進んでいるのか、どのような人々が関わっているのか、ペタコンを使って何をすることができるのか、使用するにあたりどこに問題点があるかを知ることができた」「一つのファクターを理解するためのシミュレーションを行うにしても計算量が大規模になるので、次世代スパコンの存在意義が大きいことが分かった」などの感想をいただきました。さらには「ある種の最適化問題を扱っているという点において多くの研究者の間に共通点があるということが分かった」「テーマだけでなく扱う手法のレベルでも各チーム間でクロスする部分があり、積極的に連携を図ることによってさらに素晴らしい研究が生み出されるのではないかという期待を持った」など、今後の連携による研究の発展に言及する感想も出されました。

 また、今後の要望として「生物学分野のビッグネームの先生や、企業の研究開発部門でシミュレーションをしている方の招待講演を加えてほしい」という意見や、「大学院生レベルの方が担当する勉強会的な発表があってもよいのでは」という意見がありました。さらには、「他分野のコードを実際に見ながら議論してみたい」「宿泊した部屋ごとに分かれるなどのチーム方式でサイエンティフィックなコンテストなどをやってみたら面白かったのでは」などというユニークな意見もありました。

 事務局として反省すべきだと感じた最も大きな点は、大学院生が参加しているということへの配慮を促す意見を、複数いただいたことです。一部の大学院生からは「身分や領域の垣根を全く感じなかったところが本当に素晴らしいと思った」「堅すぎず、緩すぎず、サマースクールの名にふさわしい素晴らしい会だった」「全く違ったバックグラウンド、アプローチ、経験、年齢など、普段接している人とは違った人達から様々な話を聞き、今後の研究生活に向けてよい転機になった」などの声をいただいた一方で「いわゆる偉い人やポスドクでないと質問できないような雰囲気を感じた」「ポスドクばかりの中に学生一人だとどうしても萎縮してしまう」といった感想も聞かれました。中には「プロジェクトの予算や評価の話は、純粋にサイエンスを追求したいと思っている学生にとっては良くない意味で刺激的であった」という感想もありました。アンケートの回答として「一人ひとりの自己紹介をすればよかった」との声もあったように、サマースクールの初めに、オリエンテーリング的な時間を設定して、お互いの精神的な距離を縮め、共通の課題に取り組むための雰囲気作りをすることで、さらに有意義な交流ができるのではないかと感じました。

 以上のような今回の経験を基に、来年以降、さらに充実したサマースクールが開催できることを期待しています。

BioSupercomputing Newsletter Vol.3

SPECIAL INTERVIEW
さまざまな最先端研究基盤を統合して活かすためにも
スーパーコンピュータの果たす役割は大きい

持田製薬株式会社 医薬開発本部 専任主事 東北大学 客員教授 西島 和三
超音波治療の推進および治療機器開発に欠かせない生体の音響的シミュレーション研究
東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 特任研究員 佐々木 明
研究報告
QM/MD/CGMのマルチスケール分子シミュレーションの実現(分子スケールWG)
大阪大学蛋白質研究所  米澤康滋/山中秀介/下山紘充/山﨑秀樹/中村春木
理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 福田育夫
細胞レベルの精緻な代謝モデルを用いた
肝臓シミュレータの開発と実証に向けて(細胞スケールWG)

慶應義塾大学医学部 谷内江 綾子
MEGADOCKによる網羅的タンパク質間相互作用予測(データ解析融合WG)
東京工業大学大学院情報理工学研究科 秋山 泰/松崎 由理/内古閑 伸之/大上 雅史
昆虫嗅覚系全脳シミュレーション(脳神経系WG)
東京大学先端科学技術研究センター 加沢 知毅
報告
生命体統合シミュレーションサマースクール2010を開催
理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム 石峯 康浩(臓器全身スケールWG)
東京大学医科学研究所 島村 徹平(データ解析WG)
理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム 須永 泰弘(細胞スケールWG)
京都大学大学院情報学研究科 本田 直樹(脳神経系WG)
理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム 舛本 現(開発・高度化T)
理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム 松永 康佑(分子スケールWG)
生命体統合シミュレーション・サマースクール2010へ参加して
東京大学大学院理学系研究科博士課程1年 齊藤 健
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