東京大学生産技術研究所(分子スケールWG)
(左から)佐藤 文俊、平野 敏行、上村 典子、恒川 直樹、松田 潤一
私たちは、生命活動のもっとも基礎となる分子世界の理解に取り組む分子スケール研究開発チームの中で、もっとも原理的な方法を担当しているグループです。チームについては、先号の木寺チームリーダーの記事をご参照下さい。
私たちのグループの研究内容を一言で言えば、次世代スーパーコンピュータの性能をいかんなく引き出すタンパク質の全電子シミュレーションソフトウェアを開発することです。選定されたターゲット・ソフトウェアは、標準的な電子状態計算法である密度汎関数法を用いて数々のタンパク質の全電子波動関数計算を達成した実績を持つProteinDFです。そのISLiM版への移植と超並列化チューニングは平野が担当しています。彼はProteinDFの能力と機能を拡張している中心メンバーであり、次世代スーパーコンピュータを駆使した驚くべきシミュレーションも彼が達成することでしょう。松田は多様なプロセッサで様々なプログラムをチューニングしてきたプロフェッショナルで、この11月1日付けで新しく仲間に加わりました。危うく2週間足らずで来年度の活動を仕分けされるところでしたが、計画通りVenusチップへのチューニング研究開発に才能を発揮できることになりました。電子状態の計算には、ハードウェアの性能を引き出すだけでなく、複雑な状況下で自己無撞着計算を成功させる技術が必要となります。いわばシャトルの発射から着陸までを制御するような作業で、大きな分子ほど困難です。これには専門家である上村が担当しています。 彼女が新たに開発した方法の試金石として、ProteinDFロゴのモチーフともなっている、1つの身体に4つのヘム(鉄-ポルフィリン)を持つシトクロムC3分子(図1)の計算に格闘中です。最後に、恒川は全電子計算による自由エネルギー計算に挑戦している研究者で、彼の戦略は異なるエネルギー(汎)関数を接続するというものです。これがうまく機能することを実証するためには、数百万点の量子化学計算もいとわない(そして実際に実行した)という兵です。
このような構成員のもと、次世代スーパーコンピュータならではの、電子状態からタンパク質分子の理解に貢献できるソフトウェアへと発展させています。基礎研究だけでなく、シトクロムP450 (CYP) (図2)の薬剤耐性シミュレーションといった実用性の高い応用研究も精力的に推進してゆきたいと考えております。RubisCoのCO2固定、人工光合成、生体模倣工業触媒など、エネルギー・環境問題への応用も大いに期待できます。是非、共同研究いたしましょう。
ProteinDF_ISLiMは、すでにMPI/OpenMPハイブリッド並列計算構造の獲得に成功し、Cray XT-5を使用して2500並列の実績を挙げております。恐らく、この成果が評価されて、このたびファーストランナー・アプリケーションの一つに採択されました。現在、公開された次世代スーパーコンピュータの仕様に適化させる研究開発フェーズに進んでおります。理研、富士通のお知恵を拝借しながら、ハードウェア開発工程にキャッチアップする計画です。今後の私たちグループの活動にご注目下さい。
BioSupercomputing Newsletter Vol.2