BioSupercomputing Newsletter Vol.6

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研究報告
高等学校で行った計算生命科学の授業

HPCI戦略プログラム 分野1 予測する生命科学・医療および創薬基盤

高等学校で行った計算生命科学の授業01

理化学研究所 HPCI計算生命科学推進プログラム
鎌田 知佐、藤原 康広、江口 至洋

 昨年12月、兵庫県の神戸高校と西脇高校で「スパコン京とは何?生物学は変わるの?」と題する授業を行いました。5年という期限の付いたHPCI計算生命科学プログラムの終了後も、多くの若い高校生に計算生命科学に合流して頂き、計算生命科学をさらに発展させて頂くことを願って取り組みました。授業の初めに、今日話したいこととして、

1)「 京」が世界最速のスパコンになりました。最速の鍵は並列計算にあります。
2) 生物学を学ぶにも数理(数学、物理、化学)が必要になります。
3)「 京」は生物学と数理を融合する触媒です。

の3つを示しました。5月に神戸高校の先生と授業について相談した際に「スライドだけの講義ではダメですよ」と言われ、びっくり、ない頭を絞り授業に2つの実習を組み込みました。生徒から「実習が多くて楽しかったです。」といわれると、その苦労も吹っ飛びます。
 神戸高校は60名ほど、西脇高校は90名ほどの生徒が参加してくれました。「京」の説明、戦略分野が取り組んでいる5つの課題の紹介に続き、戦略分野1「予測する生命科学・医療および創薬基盤」の紹介をかね、塩基配列の結合編集の実習と、ペプチド結合の作成実習を行いました。結合編集は15塩基対ほどの11組の断片を全生徒に配布し、実際に結合編集して頂きました。5分ほどで完成する生徒もいれば10分経ってもできない生徒もいて、教室中わいわい、がやがやでした。生徒からは「実習で塩基配列を二人でつなげてみたが、あまり数が多くないにもかかわらず、なかなか正解を見つけることができなかった。コンピュータではこれよりずっと長い塩基配列を一瞬でつなぎ、しかもミスがないということに驚いた。」といった意見が寄せられています。ペプチド結合の作成ではアラニンとフェニルアラニンの分子模型を生徒全員に配り、脱水縮合でペプチド結合を作ってもらいました。こちらはみんな静かに真剣に取り組んでいましたが、かなり悩んでいたようです。ペプチド結合の作成実習の後、タンパク質の分子動力学計算のシミュレーション結果を映像で示したところ「タンパク質が動くのを見て気持ち悪いと思いましたが、実際に自分の体の中でこのような現象が起こっていると知ってすごいと思いました。」と新鮮な感動の意見を寄せてくれました。携帯電話などのゲームに関心があると思っていましたが、このようなアナログ的な実習に興味をもっていただけて驚きました。
 HPCI戦略プログラムは、研究開発チームとともに計算科学技術推進体制構築チームを併せ持ったプログラムとなっています。推進体制構築チームのミッションは「研究開発チームによる研究開発目的の達成を支援する」ことにあります。その支援には超並列計算プログラムの高度化推進とともに、研究開発チームを社会全体で支援していただく体制の構築があります。高校生への授業は後者の活動の一環になります。授業に参加された生徒から「京はただ性能のいいコンピュータぐらいにしか思っていませんでした。医療や防災、次世代の物作りや新物質・エネルギーの創生など様々な分野で活躍していることをこの講義で知ることができました。僕も将来こういう仕事に関係していける人間になりたいと思います。」といった声や「今まで京とは計算を行うだけのコンピュータだと思っていた。生物学や物理学とつながっていると知り、驚いた。同時に、興味が大きくなった。」との声を聞くと、授業に携わった者としてうれしくなってきます。今後もご要望があれば、このような授業を実施していきたいと思います。
 最後になりますが、神戸高校の授業で代打を快く引き受けていただいた大阪大学の鷹野先生に感謝します。この授業用に分子模型の特注品作成を快く引き受けていただいた日ノ本合成樹脂製作所さん、生徒の参加数の塩基配列パズルを作っていただいた難波さんに感謝いたします。また、この機会をお作りいただいた神戸高校の長坂先生、西脇高校の藤原先生に深謝いたします。

高等学校で行った計算生命科学の授業02

BioSupercomputing Newsletter Vol.6

SPECIAL INTERVIEW
新しい流体構造連成解析手法(ZZ-EFSI)の開発によっていち早く高い演算性能を達成
東京大学大学院工学系研究科 特任准教授 杉山 和靖
開発・高度化チームに聞く「京」の実力と高い性能を引き出すために続くチューニングの取り組み
理化学研究所 生命システム研究センター 生命モデリングコア計算分子設計研究グループ
グループディレクター 泰地 真弘人
理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 次世代生命体統合シミュレーション研究推進グループ
生命体基盤ソフトウェア開発・高度化チーム 上級研究員 大野 洋介
理化学研究所 HPCI計算生命科学推進プログラム 高度化推進グループ
高度化推進チーム 上級研究員 小山 洋
理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 次世代生命体統合シミュレーション研究推進グループ
生命体基盤ソフトウェア開発・高度化チーム 研究員 舛本 現
理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 次世代生命体統合シミュレーション研究推進グループ
生命体基盤ソフトウェア開発・高度化チーム リサーチアソシエイト 長谷川 亜樹
研究報告
全原子分子動力学シミュレーションによる多剤排出トランスポーターAcrBの機能解析
横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科 山根 努 / 池口 満徳( 分子スケールWG)
ヒト循環器系のマルチスケールモデリング
理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 梁 夫友( 臓器全身スケールWG)
初期サッカード視覚運動系のスパイキングニューロンレベルでのモデル化
京都大学 ジャン・モーレン
奈良先端科学技術大学院大学 柴田 智広
沖縄科学技術大学院大学 銅谷 賢治
(脳神経系WG)
大規模並列用MDコアプログラムの開発
理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 大野 洋介(開発・高度化T)
SPECIAL INTERVIEW
複雑な生命現象の理解と予測に向けて計算生命科学の明日を拓く
理化学研究所 HPCI計算生命科学推進プログラム プログラムディレクター 柳田 敏雄
理化学研究所 HPCI計算生命科学推進プログラム 副プログラムディレクター 木寺 詔紀
理化学研究所 HPCI計算生命科学推進プログラム 副プログラムディレクター 江口 至洋
研究報告
全原子モデルにもとづくヌクレオソームポジション変化の自由エネルギープロファイル計算
日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門
河野 秀俊 / 石田 恒 / 米谷 佳晃 / 池部 仁善
(分野1-課題1)
骨格筋の活動の推定と脊髄反射の神経モデル
東京大学情報理工学系研究科 中村 仁彦(分野1-課題3)
報告
ISLiM 成果報告会2011
理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 田村 栄悦
高等学校で行った計算生命科学の授業
理化学研究所 HPCI計算生命科学推進プログラム 鎌田 知佐 / 藤原 康広 / 江口 至洋
イベント情報