理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム
田村 栄悦
ISLiMプロジェクトでは、「京」の能力が発揮できるソフトウェアを開発し、優れた学術論文を発表すると共に、「京」で利用できるようにすることが目標とされています。
ISLiMが研究開発したソフトウェアの特長は、分子スケールから全身スケールまで、そしてシミューレーションからデータ解析までを約30個のソフトウェアで包括的に構成し、京をターゲットにそれらが高度にチューニングされていることです。ライフサイエンス/ヘルスケア分野でこのように包括的にソフトウェアを構築したのは世界でも類がなく、日本発のソフトウェア資産として研究用だけでなく教育用にも高い利用価値をもたらします。
2010年後半から当プロジェクトでは、「次世代スパコンの創薬産業利用促進研究会」と協力して、ソフトウェアの完成後の利用を念頭に国内の医薬品産業界と情報交流を進めてきました。その議論の中で、このような先進的なソフトウェアを公開する場合は、利用実績も豊富で迅速なサポート体制を提供できる市販ソフトのようなバイナリー・コードを提供するのではなく、利用者が自分でプログラムのソース・コードを確認し修正できるソース・コード公開の重要性が再認識されました。また「京」版だけでなく、企業で一般的に使われている「クラスター・システム版」のニーズも再確認しました。
ソフトウェア開発責任者会議で目標推進
ソース・コード公開にあたっては、まずソフトウェア開発者がソース・コード公開の意義、公開に必要なプロセスなどについて具体的に理解し、公開にあたっての疑問点・懸念を払拭することが重要です。ISLiMでは、ソフトウェア開発責任者会議を新設し、趣旨の説明と議論を2011年11月9日、2012年2月21日、同7月23日の三回開催するとともに、ソフトウェアの知的所有権に詳しい本間高弘電気通信大学産学官連携センター特任教授と、アンダーソン・毛利・友常法律事務所重森一輝弁理士から貴重なアドバイスをいただいています。公開のための標準プロセスをプログラム開発責任者がわかるようにプロジェクト推進サイドから「ISLiM開発ソフトウェア公開準備のフローチャート」として提供し、進捗状況を図1の形で共有しています。
ダウンロード・サイトから順に公開
ソース・コードを学界のみならず産業界にも広く利用していただくために、2011年にダウンロード・サイト (http://www.islim.org/islimdl_j.html)を新設し、図2に示すように準備が整ったソフトウェアから順に公開してきました。ソフトウェア開発責任者会議で共有している目標は、2012年4月に全体の50%のソフトウェアを公開し、プロジェクト終了半年前の2012年10月に100%のソフトウェア公開です。その後の半年で、成果報告会、講習会などの普及活動をする予定です。
2006年に研究開発に着手したときの34個の独立したソフトウェアも、いくつかは開発最終段階で一つのソフトウェアに統合されるなどし、最終的には30個程度になる予定です。これらの最新の公開状況はダウンロード・サイトに示されていますのでご覧ください。「京」版と「クラスター・システム版」はコンパイラーの指定等で切り替えられるようになっています。
多くの資源を投入して6年間研究開発してきた貴重な公開ソフトウェア資産ですが、プロジェクト終了後にどういう形で展開していくかを検討し、効果的に次へとバトンタッチしていくことが、今後の課題として残されています。
図1:進捗状況の共有
図2:ダウンロード・サイト (http://www.islim.org/islim-dl_j.html)の一部
BioSupercomputing Newsletter Vol.7